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思い描いていたネパール - Nepal vol.3 -


カトマンズからポカラへ。ビザの関係で、3週間という限られた滞在期間の中、ネパールでの移動の予定は、入国前にあらかじめ決めていた。

カトマンズから、ガタガタした山道を走ること、約7時間。当然、発展途上国のネパールの道は、舗装などなされていない場所がほとんどだ。車内に流れるお決まりのネパーリー音楽に飽き、さらに数時間がすぎた頃、やっとポカラに到着した。ここもまた、カトマンズ同様に観光客が数多く訪れる場所だ。カトマンズは首都であり、国外からの飛行機が発着する空港があるため、否が応でも観光客が訪れることになる。一方、このポカラになぜ観光客が集まるのかというと、観光客の思い描いているネパールのイメージが、ここに集約されているからだと、僕は思う。湖畔とヒマラヤ山脈に囲まれた美しい景観、まるで白いヒマラヤ山脈の色ように涼しく、それでいて暑くもない絶妙な気候。カトマンズに比べ、のんびりと毎日を過ごす人々。実際はどうあれ、他国の人間が、おそらく真っ先に思い描くであろうネパールのイメージのほとんどが、ここにはある。それでいて、宿やトレッキングツアーなど、観光客を受け入れる体制も整っており、観光地化とネパール「らしさ」を絶妙なバランスで併せ持った、ある意味で、計算されつくされた町だ。

そんなポカラにやってきた目的は、ただひたすらにのんびりすることだ。僕にとっても、ここポカラは、ネパール「らしさ」の象徴であり、そうならば、そんな町でのんびりすることが、僕の中のネパールだったのだ。

町を歩く。町というより、大きな村に観光施設が程よく点在しているような印象だ。湿気が少なく涼しい気候が、歩を進めさせる。ちょうどこの頃は、商売の神様を崇める祭りの時期らしく、あちこちで、花を編み込んだ大きな首飾りをぶら下げた人たちを見かけた。若い女性は、それに加えて、綺麗なサリーを着こなしている。おそらく、特別な日にしか袖を通さない一張羅なのだろう。肌が浅黒く、細身でスタイルの良いネパール人女性には、サテンのような光沢のある生地のサリーがよく似合う。中でも一番美しいと思ったのは、彼女たちの肌色に良く映える、発色の良い深紅のサリーと、濃いエンジのサリーだ。こと女性の場合、民族衣装とは、その国の女性を、一番美しく見せるための服装なのだと、この時知った。綺麗なサリーを着こなし、艶のある長い黒髪をなびかせて、楽しそうにおしゃべりしながら歩く彼女たちに、健康的な色気を感じた。

ポカラでは特に何かをするつもりはなかったが、ひょんなことから、2泊3日のミニトレッキングに出かけることになった。ヒマラヤ山脈が近いこともあり、トレッキング目当ての観光客が多い。しかし、僕が行くことになったミニトレッキングは、そんなに本格的なものではなく、ハイキング程度の、大変ゆったりとしたものだった。ことの発端は、泊まっていた宿の主人に勧められ、まんまとその手に乗ってしまったという、良くある話だ。だが、一つ断っておきたいのは、この時の僕は、自分の意志で、この話を受けたということだ。ガイド付きで、2泊3日150US$。この値段が、相場として高いのか安いのかは分からないが、僕は自分の懐具合と、残りの滞在期間を考えて、この値段で、ハイキング程度とはいえ、トレッキングを体験でき、美しい景色を堪能できるのなら、(町からの眺めも十二分に素晴らしいが)価格に十分見合った内容だと思った。日本にいても旅をしていても、最後の最後に決断を下すのは、自分の意志だ。そういう意味では、最終的に、僕らはどこにいて何をしていても、わずかな自由を、身体のどこかに隠し持っていることになる。

自由の定義とはなんだろう。ポカラでの快適な生活が、普段は考えないことを、僕に考えさせた。その位、この町の快適な気候と雰囲気が、僕の心に余裕を与えてくれた。様々なことを考え、今まで見えなかった気持ちが、心の中に姿を現す。それは、まるで水面に落ちた雫の波紋が、落下点から周囲にゆっくりと広がっていくようだった。そんなイメージの繰り返し。それを、感情が豊かになると言うのなら、この時の僕は、確かに感情の豊かさを掴みかけていたのだと思う。

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