top of page

アラビアの古都 - Syria vol.1 -

  • Ryusuke Nomura
  • 2013年5月27日
  • 読了時間: 5分

シリアへ。翌朝、バスターミナルに戻り、バスでシリア国境を目指した。荒れ果てた荒野の一本道を、ひたすらに突き進む。時折、小高い山々の稜線が、シリアへと向かう張りつめた気持ちを若干和ませながら、僕を乗せたバスは、シリア国境へと進んで行った。

2、3時間程走っただろうか、上から、赤、白、黒、真ん中の白地の部分に、星が二つ付いた、シリアの国旗が風になびいているのが見えた。国境に付いたのだ。バスを降り、トルコ側の出国審査を済ませる。そのまま、シリア側の入国審査に向かい、事前に日本でシリアビザを取得していた僕は、ここでも、すんなり審査を通過した。アラブ諸国に足を踏み入れることに、高揚感と、その隅にある緊張感、言い換えれば、一抹の不安を拭いきれないでいた僕は、これ程ない位にあっけなく、シリアへと入国した。

そこからまたバスに乗り込み、数時間程走ると、当たりはすっかり暗くなり、小雨が降り始めていた。どうやら町中に入ったようだが 街灯が少なく、町の様子がよくわからない。分かっているのは、ここは、シリアの首都・ダマスカスということだけだった。その事実だけで、僕は満足していたのかもしれない。それ位、日本で暮らす僕には、このシリアを始めとする中東地域は、物理的にも、精神的にも、現実から遥か遠く離れた場所だった。それ故、魅惑的で、一筋縄ではいかないような魅力が、光に反射されたダイヤモンドのように、そこかしこに輝いていた。

宿に着いた時には、もうすっかり夜だった。夕食をとるために、夜の町をぶらついている時に、あることを思い出した。厳格なイスラム国家である、ここシリアでは、トルコでは大目に見られていた飲酒が、全面的に禁止されており、アルコールを売る店も存在しないということだ。いや、厳密に言えば、外国人観光客向けに、高級ホテルのバーなどで、販売しているという話もあるにはあったが、そんな場所には縁がなかったし、そこまでして飲酒をする理由もなかった。そんなわけで、シリア人は、アルコールの代わりに、水タバコを吹かすことで、それを娯楽の一つとしているようだった。町中には、水タバコの吸えるカフェがあり、水タバコを数人の仲間うちで回し吸いしてる姿を、よく見かけた。その割合は、必然的にトルコよりも多いはずだった。

この水タバコというのがまたくせ者で、その名の通り水を通して吸うので、普段タバコを吸うことのない僕でも、難なく吸うことができた。また、特筆すべき点は、注文時にフレーバーを選ぶことができるということだ。ストロベリーやアップルなど、フルーツ系がほとんどなので、甘い味で非常に吸いやすい。固い印象のあるアラブ国家でのそのポップさも、なんだか微笑ましかった。そして、これは、僕が普段タバコを吸わないからかもしれないが、ニコチンを接種することにより、少し頭がクラクラしてくる。それがとても心地よく、なるほど、これならアルコールの代わりになるなと思ったほどだ。飲酒が禁止されているから、この水タバコが生まれたのか、また、そんなこととは関係なしに、水タバコは、昔からアラブ社会の庶民の嗜みの一つなのかは分からないが、こんなに素晴らしい嗜好品を生み出したアラブ世界の懐の深さには、大いに感心した。

翌朝、世界最古の都市、すなわち、世界で最も古くから人が住んでいたと言われるダマスカスの町を、カメラ片手に、ひたすら練り歩いた。旧市街の大通りから少し路地に入ると、「アラブの世界」が僕を待っていた。細い石畳の道は、クネクネと至る所に伸び、その両脇の壁は古びていて、それらは品格を程よく残しており、歴史の重さを感じさせる。道行く女性は、スカーフで頭を覆っている。トルコ女性の多くは、多彩な柄のスカーフを使い、それによってお洒落を楽しんでいたのに対し、シリア女性のほとんどは、白か黒のスカーフを身に付ていた。中には、全身黒装束の女性の姿もあった。そんな些細な服装の変化に、敬虔なイスラム国家としての誇りを感じる。

町を歩いているだけでも十分楽しかったが、せっかくなので、モスクに行くことにした。ダマスカスで有名なのは、ウマイヤドモスクというモスクだということは、事前にガイドブックで調べていた。このモスクは、世界最古のモスクであり、規模においても、最も大きいという。旧市街のバザールを抜けた所に入り口があり、入場料を払い中に入る。すると、そこは、(おそらく)大理石を敷き詰めた、四角いスケートリンクのようになっていて、その四隅で、礼拝の時刻を告げるアザーンの鐘を待っているのだろうか、人々は腰を下ろし、談笑している。僕もその近くに腰を下ろし、裸足になってみると、石の冷たさが、足の裏から一気に脳に脳天にまで駆け昇り、心地よい緊張感を僕に与えた。かと思うと、リンクの中央では、子供達が思い思いに走り回ったりして遊んでいて、その緊張感を一瞬のうちにかき消していく。

しばらくリンクをウロウロしてから、モスクの中に入る。内部は、世界最古ということで、古びてはいたが、よく手入れが行き届いており、汚いという印象を受けないどころか、老舗の旅館のように味わい深いものだった。全身黒装束で、頭にターバンを巻いた男性の姿もチラホラと見かける。やがて、アザーンの鐘が鳴り、人々は、床にひれ伏し祈りだす。一人きりだったり、数人で固まってみたり、そのスタイルは様々だ。

どこからか、音楽が聞こえてくる。モスクの一カ所で、十数人の男達が、輪を作り集まっていた。近くに寄ってみると、それは音楽ではなく、男達の歌声だった。左胸に右手のひらをあて、真剣な眼差しで合唱している。その後ろでは、全身黒装束の女達も、大勢固まって、男達の姿を見守っている。何を歌っているのか、言葉は全く分からなかったが、それが真剣な祈りだということは、誰の目にも明らかだった。一つのもの、神をこれだけ真剣に信じることのできる彼らの生活は、常に神と隣り合わせで、ともすれば、窮屈なものなのかもしれない。しかし、彼ら程強い何かを持たない僕には、その姿は羨ましく写った。日本人である以上、一生かかっても、彼ら程の強い眼差しを、僕が得ることはないのだろう。

Comments


Follow Us
  • Facebook - Black Circle
  • Facebook - Black Circle
Recent Posts
Search By Tags

© drunk afternoon all rights reserved.

bottom of page