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Hola Mexico - Mexico vol.1 -

カンクンの空港に着き、入国審査官の質問が、英語ではなくスペイン語だった時、今までとは違う文化圏に来たことを実感した。僕は、メキシコに来た。後から聞いた話だが、メキシコという地域は、中米ではなく、北米に属しているらしい。南北に伸びる広大なアメリカ大陸を三等分した時、カナダ、アメリカ、メキシコを北米、グアテマラからパナマまでを中米、そして、パナマ以南を南米とするらしいのだ。てっきり、カンクンの空港から中米の旅をスタートしたつもりだった僕は、しかし、依然として北米に留まっていたことになる。そんな細かいカテゴライズの妙を、僕は幾度となく、カンクンの町中で実感した。

僕は、メキシコという国を当初、経済的にも、生活水準的にも、かなり遅れた国だと思っていた。南米程ではないがサッカーが割と強く、マフィアによる犯罪がはびこり、タコスやサルサなどのスパイシーな料理を常食とする陽気な人々の暮らす国。という程度のイメージしか抱いていなかった。その中の「陽気な」という部分には、物資や金銭に恵まれなくとも、前向きに明るく生きているという、先進国に暮らす多くの人々が妄想する、発展途上国に対する偏見が、全くなかったとは言い切れない。しかし、カンクンの町は、僕の予想を裏切った。まず驚いたのは、町の中にコンビニがいくつも点在しているということだ。

とりわけ多かったのは「OXXO(オクソー)」というチェーン店で、店内は、照度の高い蛍光灯が天井に張り巡らされ、品揃えは日本のそれと遜色ない。食料品から、シャンプーなどのちょっとした生活必需品までが取り揃えられ、ブリトーやスムージーなどのファーストフード類も充実していた。OXXOに入る度に、まるで日本のコンビニにいるような錯覚に陥ったが、日本のコンビニでいう肉まんやおでんに変わるものが、ここではブリトーやタコスであることに気付き、自分が今メキシコにいることを再認識した。コンビニの数が、イコールその国の経済的発展度になるわけではないが、少なくとも、僕が思い描いていた「中米」という地域の、それではなかったことは確かだった。そう、ここは「北米」なのだ。

もう一つ、僕の想像を大きく上回ったのが、メキシコの食事だ。辛い、とにかく辛いだけだと思われがちなメキシコ料理だが、日本で、ちゃんとしたメキシカンを食べたことのなかった僕も、そう思っていた一人だった。そう、本場のメキシコ料理は確かに辛い。しかし、それは、日本人の僕が耐えうる程度の辛さであり、辛過ぎて美味しさよりも辛さの方が勝ってしまうギリギリ手前の辛さでもある。ここでは、口に入れるものがことごとく美味しく、外れがなかったが、とりわけよく食べたのは、日本でもおなじみのタコスで、メキシコ人にとってはおやつ感覚らしく、町のいたる所に屋台が出ている。

多くのタコス屋では、鶏肉、牛肉、豚肉の中から好きな肉を選び、店員に個数とともに伝える。大体が、円形で手のひらサイズの小さな大きさなので、2、3個同時に注文することになる。トウモロコシの皮でできたトルティーヤは薄く、それでいてモチモチとしていて、それだけでも十分美味だ。それが二枚重ねになり、その上にトマトやタマネギなどの野菜、さらに上に肉がのる。具材は、トルティーヤで挟んで食べると、ボロボロとこぼれてしまう位の量が盛られる。サルサソースはセルフサービスの店が多く、赤か、もしくは緑色のソースをタコスにかける。緑のソースの方が辛さが強いらしいが、僕にとってはどちらも辛いので、その時の気分によって色を変えていた。

このタコスがまた絶品で、辛さの中にうまさありとはよく言ったもの。それは、このタコスのためにある言葉のように思われた。トウモロコシの風味が香るモチモチとした生地に、瑞々しい野菜、そして、何の味かは分からないが、濃過ぎない程度に味付けされた肉。そこにサルサソースが加わり、1/4程度にカットされた小型のライムを少し絞って食べる度に、自分がメキシコに馴染んでいくような気がした。恐ろしのは、このタコスが、ちゃんとしたレストランではなく、道ばたや、広場のフードコートの一角にある屋台だということだ。単に自分の舌に合っていただけかもしれないが、こんなにレベルの高い屋台料理は、今まで訪れたどこの国でも出会ったことはなかった。食に関して、この国はかなり恵まれていると、僕は思う。

一つ難点があるとすれば、屋台でタコスを食べながら、ビールを飲むことができないという点だろうか。なぜだかは分からないが、メキシコの法律で、路上でアルコール類を飲むことは禁止されているのだ。降り注ぐ太陽のもと、辛い料理を食べながら味わうビール。それが叶わないと知った瞬間、これ程の贅沢はないように思われた。しかし、こんなにも陽気な人々が、こんなにも理不尽な法律に、おとなしく従っているのかと思うと、肌が浅黒く、目の大きなメキシコ人達が、妙に愛くるしく思えてきた。よし、僕もこの法律に従うことにしよう。そして、実際に接したメキシコ人は、やはり明るく陽気な人が多く、ことあるごとに、親指を立てたポーズをするのが印象的だった。日本だったら、大の大人がそんなポーズをしたとなれば、白い目で見られるのがオチだが、ここでは大人から子供まで、みな得意げに親指を立てる。彼らがそのポーズをとる時は、例外なく、浅黒い肌に白い歯が映えていた。

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