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太陽の国 - Mexico vol.3 -

  • Ryusuke Nomura
  • 2013年12月23日
  • 読了時間: 5分

夢の中で、部屋のドアをガンガン叩く音が聞こえる。その音は次第に大きくなり、僕の耳に迫ってきた。2、3秒夢と現実の間をさまよい、なお鳴り止まない音と、スペイン語で何事かを叫ぶ女性の声をはっきりと聞き取れるようになった頃、ようやく、完全に夢の中から抜け出した。外はまだ薄暗く、太陽はまだ目を覚ましていない。そう、この日は、パレンケ遺跡観光のツアーに申し込んでいたのだ。

僕がまだ多感な高校生だった頃、その興味の矛先は、学校の勉強ではなく、もっぱら、中南米に点在する、マヤ・アステカ文明の古代遺跡だった。そのきっかけは、グラハム・ハンコックの「神々の指紋」という本だ。中南米および古代エジプトに点在する遺跡群に、従来とは違う方法でアプローチをし、地域も年代も離れた遺跡群の共通点をあぶり出し、過去に、現代を越える高度な文明が存在していたという説を実証していくといったもので、思えば、この時に、未知のものに対する強い憧れが芽生えたのかもしれない。その未知への憧れが、今は、旅をするという形で現れているのだろう。しかし、年を重ねるごとに、その興味は徐々に薄れていき、やがて社会人になり、毎日忙しく働く中で、自分がそんなものに興味を抱いていた事自体を忘れていた。だから、今回のパレンケ訪問は、その興味を取り戻す意味もあった。

パレンケは、パレンケ遺跡があるからこそ、かろうじて成り立っているような、小じんまりとした町だった。世界的リゾート地であるカンクンの華やかさは、ここにはない。町の中心街には、遺跡旅行者のための安ホテル、バスツアー会社が立ち並び、雑然とした、お世辞にも綺麗とは言えないその光景は、初めて一人旅をした東南アジアのそれを彷彿とさせ、なんだかワクワクしてくる感覚があった。そして、これは、あくまで個人的な感覚だけれど、NY、そしてカンクンと、割と大きな都市を旅してきた時には味わえなかったものだ。もっとも、東南アジアの強引な客引きに比べて、ここメキシコのそれは、拍子抜けする程にあっさりしていて、付きまとわれてうんざりすることなどなく、僕自身も、それが寂しいと思うことなど全くなく、ゆっくりと自分のペースで町歩きを楽しめるのは、ありがたい限りだった。

メキシコの日中は、とにかく暑い。東京の夏と比べ湿度は低いが、突き刺すような日差しの強さは半端ではなく、暑さを感じているというより、太陽そのものを感じている気がしてくる。かつて、ここメキシコの地に栄えたマヤ・アステカ文明を築いた人々が、数ある神々の一つに太陽を選んだのも、なるほど合点がいく。この地で、太陽の存在感は抜群だ。

そして、ここパレンケでも、多分に漏れず、町角のメキシコ料理のクオリティーは相変わらずで、タコスの美味しさもさることながら、僕が一番気に入ったのは、ミチェラーダという飲み物だ。これは、ビールにチリソースや塩、ライム果汁などを混ぜこんだ飲み物で、場合によっては、エビなどの魚介類もトッピングされる。普通のビールよりも飲みやすく、チリの辛みと塩気が絶妙で、ビールの苦みを抑えるとともに、強すぎない程度の刺激をプラスしてくれる。まさに、メキシコの気候が生んだ、庶民のカクテルといった趣だ。僕が入った店は、どうやらミチェラーダの専門店らしく、口髭を蓄え、髪をジェルでバッチリと決めた、いかにもメキシコ人といった風貌の男性が、目の前でミチェラーダを作ってくれた。店構えは、普通の食堂にカウンターバーが付いたような、庶民的な造りにも関わらず、この男性がミチェラーダを作る姿は、クラブのバーテンダーさながら、テキパキと流れるような作業に、氷の固まりをグラス用に細かく刻む作業は、見ていて惚れ惚れとする。ビールだと最初の一杯で飽きてしまうが、ミチェラーダは飲みやすいので、何杯でもいけてしまう。ベースになるビールも選べるので、微妙な味の変化を楽しむのもいい。日本に帰ったら、見よう見まねで作ってみようと思う。夏の定番になるはずだ。

もう一つ、ここパレンケで印象深い話がある。前述したように、メキシコは、太陽がその力を思う存分発揮しているおかげで、非常に日差しが強く、とにかく暑い。旅に出て、まだ一ヶ月も経っていなかったが、この暑さの中を過ごすには、僕の髪は伸びすぎていた。少しでも暑さを和らげたいのと、怖いもの見たさの好奇心が重なって、パレンケ遺跡に行く前日、僕は床屋に行くことにした。以前、タイでパーマをかけたことはあったが、髪を切ったことはない。しかも、タイの時は、バンコクの繁華街にある、観光客も良く行くであろう、小綺麗な美容院だったが、今回は、入り口の扉が開けっぴろげになっているような、本当に地元の人しか行かないような店だった。

「ポコ、ポコ、ポルファボール(少し、少しだけお願いします)」限りなくゼロに近いスペイン語の語彙を駆使して、ふわりとしたショートカットを品よく決めた中年女性の店員に、自分の意志を伝えようとする。メキシコ人のように、ジェルでガチガチに固める短髪にはしたくなかったので、少しだけ切って欲しかったのだ。どうやらその意図は伝わったらしく、特に問題もなく、散髪は開始された。散髪している間、視力の悪い僕は、眼鏡を外し、自分が何をされているのか分からないままだ。かなりのスピードで、手際よく作業は進められていく。その手際のよさに、なんとなく安心した僕は、しかし、数分後、失意の底に落ちることになる。散髪が終わり、眼鏡をかけて鏡に映っていたのは、例えるならば、中国の体操選手のような、坊ちゃん刈りの冴えない東洋人だった。

うん、確かに、髪の長さ自体は、そこまで短くなってはいないようだ。しかし、「髪をすく」という文化がないのだろう。純粋に長さだけをバッサリと切り落としていった結果、こんなにも滑稽な姿になってしまったのだ。僕は、その足で別の床屋に行き、頭を丸刈りにした。料金は、確か日本円で2~300円程だったと記憶しているので、はしごしたとしても、それほどの出費ではない。頭を丸刈りにして、カメラを持って歩いていると、いかにもステレオタイプの日本人といった感じで、少し恥ずかしかった。より一層、太陽の暑さを感じることになってしまったが、しかし、ここは太陽の国・メキシコ。今までより、一層この国の暑さと熱さを感じられることを期待して、翌日、パレンケ遺跡に出発した。

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