小さな出逢い - Laos vol.3 -
- Ryusuke Nomura
- 2011年12月24日
- 読了時間: 4分

バンビエンには、当初の僕の印象を覆す程の魅力が、たくさん詰まっていた。バンビエンに着いて、素晴らしいロケーションと、それとは逆に、観光地化されてしまった様子に落胆しながらも、夕食を食べるため、カフェのような、食堂のような、一言で言い表せないような店に入った。思えば、バスが遅れたこともあって、ひどく空腹だったのだ。できればラオス料理を食べたかったが、メニューには、ハンバーガーやサンドイッチなどの観光客向けの物しかなく、仕方なくハンバーガーを食べることにした。空腹のせいで非常に美味しく感じるが、味はごく普通といったところだ。ものの数分でハンバーガーを平らげ、いつこの町を出ようか考えながらボーッとしていると、店の奥が、インターネットスペースになっていることに気が付いた。
メールのチェックでもしようかと思い、店員に料金を聞いてから、パソコンの前に座る。すると、程なくして、一人の店員が話しかけてきた。ラオス人青年だ。日本人の僕に興味津々なようで、カタコトの英語で色々な質問をしてくる。
「日本のどこから来たのか」
「ラオスにはどの位いるのか」
「仕事は何をしているのか……」
僕もカタコトの英語でそれに答える。彼の名前は、ノイといい、首都ビエンチャンの大学に通う大学生だという。今は大学が休みなので、このバンビエンまでアルバイトに来ているそうだ。話していると、彼はサッカーが好きで、マンチェスタ-ユナイテッドが特に好きだという。丁度この頃は、2010年のワールドカップが終わって間もない頃だったので、「この間のワールドカップは見た?」と聞くと、「見た」と言うので、日本人で一番有名なサッカー選手は、今なら、ナカタやナカムラよりもホンダなのかなと思い、「ホンダって知ってる?」と聞いてみた。するとノイは目を輝かせて、「知っているよ! 知っている!」と答えた。僕は嬉しくなり、目の前のパソコンでYouTubeを開き、デンマーク戦での、ホンダのフリーッキックシーンを再生した。
二人でその動画を興奮しながら見終わった後に、ノイはこう言った。
「このフリーキックが決まった瞬間は、ラオスでもみんなが熱狂した。僕も嬉しかった。同じアジアの国だから」
僕は今まで、日本を、アジアという大きなカテゴリーの一部として捉えたことがなかった。タイやラオスのような同じアジアの国々に対しても、「日本とそれ以外の国」というスタンスだった。「そうか、僕は、日本人ではあるけれど、その前にアジア人だったのか」僕の中に、新しい価値観が芽生えた瞬間だった。同時に、自国以外ではないアジア諸国の躍進を、純粋に喜べるノイの大らかな心を愛おしく思った。この些細なやりとりの中で、彼の心の豊かさが垣間見えた気がした。ノイは、明日、ビエンチャンに帰るという。ビエンチャンでまた会おうと約束して、僕は店を後にした。
旅の醍醐味、その一つに、言わずもがな「出逢い」があるが、どんなに良い出逢いをしたとしても、その場所にずっと留まることはできない。留まってしまえば、それは旅では無くなってしまう。その事実は、やるせなさを感じると共に、人生そのものにも直結する。別れる為に出逢う。それと同じように、死ぬ為に生まれる。別れがあるからこそ旅であり、死があるからこそ人生だ。けれど、決してそれらは、ネガティブな事ではなくて、ごく自然のこと。いつか終わりが来ることは、すでに決まっていることだ。だからこそ、人生そのものが大きな出逢いの場であり、自らの死を持って、別れとなる。たくさんの人と出逢って別れていくことが、自分の人生に別れを告げる瞬間の、予行練習のようなものなのかもしれない。
この日の宿までの帰り道、僕は考えていた。「今日は、いい出逢いがあった。今の所、この町自体はそこまで好きになれないけれど、この町の人は好きになれるかもしれない。もう少し滞在してみようか」ノイとの小さな出逢いが、もっともっとラオス人と触れ合ってみたいという欲求を、僕に抱かせた。ラオスという国の人々は、僕たち日本人が持っていない、あるいは、とうの昔に失ってしまった何かを持っているのかもしれない。そう都合良く自分に言い聞かせた。
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